『更年期障害はエストロゲン優位〜リアルサイエンスシリーズ』

心身の健康ヘルスケア・パーソナルコーチのリアル・サイエンスドクタ—崎谷です。
あなたが知っている更年期障害の常識は、もはや古い!最新の研究が明かす驚きの事実をご紹介します。
更年期を過ぎると女性ホルモンが枯渇する?それは大きな誤解です。実は、体内のエストロゲンは局所で増産されていたのです。
更年期になると卵巣依存から局所産生へシフト
閉経後、卵巣からのエストロゲン産生は停止し、脂肪組織、骨、皮膚、脳などで局所的にエストロゲンが生成されるようになります。これらの各臓器で産生されるエストロゲンは、更年期以降加齢とともに増加します。
脂肪組織
脂肪細胞中では、アンドロゲンからエストロゲンへの変換が促進する酵素(アロマターゼ)の活性が加齢とともに上昇します。具体的には、皮下脂肪では閉経後に1.5倍、内臓脂肪では約1.5~1.8倍の増加が報告されています
参考文献
・Steroid sulfatase activity in subcutaneous and visceral adipose tissue: a comparison between pre- and postmenopausal women. Eur J Endocrinol. 2016 Feb;174(2):167-75.
・Estrogens in Adipose Tissue Physiology and Obesity-Related Dysfunction. Biomedicines. 2023 Feb 24;11(3):690.
乳腺組織
乳腺脂肪組織においては、閉経後の局所エストロゲン濃度が上昇し、乳がん発生や進行に関与することが指摘されています。
参考文献
・Estrogens in the breast tissue: a systematic review. Cancer Causes Control. 2011 Feb 1;22(4):529–540.
・A link between breast cancer and local estrogen biosynthesis suggested by quantification of breast adipose tissue aromatase cytochrome P450 transcripts using competitive polymerase chain reaction after reverse transcription. J Clin Endocrinol Metab. 1993 Dec;77(6):1622-8.
骨組織
骨では、局所的なエストロゲン濃度が血中濃度の3~4倍に達することが報告されています。
参考文献
・Estrogen synthesis and signaling pathways during ageing: from periphery to brain. rends Mol Med. 2013 Jan 22;19(3):197–209.
更年期以降に骨粗鬆症になるのは、骨のエストロゲン濃度が高まるためです。
2025年の研究でも、更年期以降で脂肪組織は血液濃度の10倍以上のエストロゲン濃度であることが明らかにされています。エストロゲンの血液濃度(血清エストロゲン値)が低くても、各組織のエストロゲン濃度は高い値をキープしています。
したがって、血液中のエストロゲン濃度が低いからといって、エストロゲン欠乏とは言えないことが分かります。むしろ各臓器でのエストロゲン産生が高まっているからです。
参考文献
・Adipose Tissue Sex Steroids in Postmenopausal Women With and Without Menopausal Hormone Therapy. J Clin Endocrinol Metab. 2025 Jan 21;110(2):511-522.
子宮がんや乳がんが更年期以降に増加する理由が、ついに明らかに!
エストロゲンが原因で発生する子宮がんや乳がんは、更年期以降に多発します。
もし、更年期以降にエストロゲンが減少していくのであれば、子宮がんや乳がんは若い女性に多発するはずです。
もちろん、近年ではピーファス(PFAS)、フタル酸やグリホサート(除草剤)などのエストロゲン様物質の暴露が多いため、若年者でも発ガンするケースは増えていますが、やはり更年期以降の方が発ガンする確率は高いのです。
参考文献
・Serum Estrogens and Estrogen Metabolites and Endometrial Cancer Risk among Postmenopausal Women. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2016 Apr 12;25(7):1081–1089.
・Global burden and trends in premenopausal and postmenopausal breast cancer: a population-based study. Lancet Glob Health. 2020 Aug;8(8):e1027-e1037.
抗ストレスホルモンのプロゲステロンは加齢とともに減少
一方のエストロゲン作用をブロックするプロゲステロンは、妊娠ホルモンと呼ばれています。しかし、これも実際は、ストレスから身を守る抗ストレスホルモン、あるいは保護ホルモンと呼ぶべきです。
更年期に入ると卵巣の黄体機能が停止し、プロゲステロンの分泌は急激に低下します。そして、加齢とともにプロゲステロンの分泌は低下していきます。
参考文献
・Menopausal Transition Stage-Specific Changes in Circulating Adrenal Androgens. Menopause. 2012 Jun;19(6):658–663.
更年期障害の真犯人はエストロゲン優位!
閉経後の急激なプロゲステロン低下により、「プロゲステロン/エストロゲン比」が低下しエストロゲン優位(エストロゲンドミナンス)状態となります。
副腎からのプロゲステロンは存在するものの、量的には十分ではなく、このバランスの乱れが乳癌を含めた多臓器のがん、自己免疫疾患や骨粗鬆症などのリスクを増加させる因子となります。
参考文献
・Aberrant regulation of RANKL/OPG in women at high risk of developing breast cancer. Oncotarget. 2016 Dec 18;8(3):3811–3825.
なお、現代社会ではエストロゲン優位状態は、女性だけでなく男性(すぐにキレやすい、焦燥感が強いタイプ)にも発生しています。
したがって、更年期障害、あるいは更年期以降にがん、自己免疫疾患や様々な心身の不調を経験するのは、決してエストロゲン欠乏が原因ではなく、その逆のエストロゲン優位の状態がもたらした弊害なのです。