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Dr.HIRO

『悪質な「糖悪玉説」を撃退する〜リアルサイエンスシリーズ』

 

 

 

 

心身の健康ヘルスケア・パーソナルコーチのリアル・サイエンスドクタ—崎谷です。

 

 

一般健康ポップカルチャーでは、まだ繰り返し「砂糖悪玉説」が流布されているようです(最近では、プーファを擁護する輩もカミングアウトしています😀)。

 

 

 

 

今回、ご紹介するネット記事は、無知がなせるものなのか故意のものか判然としませんが、結果的には他の繰り返しなされる人格攻撃の批判(エビデンスで勝負できない)よりもかなり悪質なものです。

 

 

 

この記事の元論文は、ある人物の信念(ファクト、エビデンスと正反対)を擁護するために、その人物が資金を出して書かせたものです。

 

 

記事の内容はいつもの80:20の正義論をかざした誘導ものですが、引用した元論文を詳細に見ていくことで勉強にもなります。

 

 

 

数回に分けて、この元論文が提示する「砂糖悪玉説」を粉砕していきます。

 

 

 

まずは、その悪質な記事の内容を転載いたします(なぜ悪質なのかは、シリーズの最後までお読みいただくと理解できるようになっています(^_−)−☆)。

 

 

 

(掲載開始)

⚫️業界団体がひた隠しにした「砂糖と心臓病の関係」。その不都合な真実とは?

 

科学の世界では、企業が資金提供する研究と、研究者倫理の問題がしばしば起こります。『健康になる技術 大全』の著者・林英恵さんは「特に、生活と密接しているパブリックヘルスの分野は注意が必要」と警鐘を鳴らしています。

 

 

本稿では、ハーバード公衆衛生大学院の教授陣から「日本人のために書かれた最高の書」「世界で活躍するスペシャリストが書いた唯一無二の本」と激賞されている、最先端のエビデンスをもとに「健康に長生きする方法」を伝授した本書から一部を抜粋・編集して、「砂糖と心臓病」に関する、業界の不都合な真実を明かします 。

 

 

監修:イチローカワチ(ハーバード公衆衛生大学院教授 元学部長)

*書籍『健康になる技術 大全』の「食事の章」はケンブリッジ大学疫学ユニット上級研究員 今村文昭博士による監修

 

 

● 資金提供を受けた筆者が、論文の結果を操作

 

 科学の世界においては、企業が資金を提供する研究と、研究者の倫理についての問題がよく起こります。生活と密接しているパブリックヘルスの分野は特に、この点に注意が必要です。そしてこれは砂糖に関しても当てはまります。

 

 2016年、著名な学術誌に衝撃的な記事が掲載されました。その内容は、アメリカの食生活のガイドラインなどをはじめとする、政策に影響を与えた論文の筆者が、業界団体から資金提供を受けて、論文の結果を操作していたというものです(*1)。

 

 歴史的な背景を辿ってみましょう。まず、1943年に、甘味料ビジネスのための業界団体として、SRF(Sugar Research Foundation)が設立されました。

 

 

それから少し後の1950年代、アメリカでは心臓病による男性の死亡率が増加しました。当時、アイゼンハワー大統領自身も心臓発作で闘病していました。

 

 

 心臓病の予防が国を挙げての取り組みとなり、1960年代、心臓病の原因に関する研究が進みます。結果、2つの説が有力視されるようになりました。

 

 

1つは、飽和脂肪酸やコレステロールのとりすぎ説(ミネソタ大学・アンセル・キーズ博士による)、もう1つは糖のとりすぎ説(イギリス、クィーンエリザベス大学・ジョン・ユドキン博士による)です。

 

 1967年に世界的にも権威のある医学の学術雑誌であるNEJM(New England Journal of Medicine)に、キーズが唱える「飽和脂肪酸とコレステロールを減らし、不飽和脂肪酸を増やすことが心臓疾患を防ぐ。炭水化物=糖類による心臓病のリスクは少ない」という説を基にした論文が掲載されました(*1,2)。

 

 これにより、メディアをはじめとする世論は、心臓病予防のために食事で注目すべきは「脂肪とコレステロールである」との方向に傾き、糖類と心臓疾患の関連に関する議論は抑えられることになりました。

 

 

ここから、アメリカの食生活ガイドラインや、低脂肪ダイエットへの流れが一気に作られることとなったのです(*1)。低脂肪ダイエットに関しては、現代では推奨されていません。

 

● 現在は、資金提供の有無の明示が必須

 

 この一件に関して、今回の論文は、当時何が起こったのかを歴史的な資料から明らかにしたのです。これによると、SRFは、論文に携わったハーバード大学の研究者3名それぞれに、現在の価格での約5万ドル(約650万円)を支払い、論文の結果を操作するよう依頼しました。

 

 

出版前にSRFが原稿をチェックしたり、組織的な操作が行われたりしたことを明らかにしました。

 

 そのうちの一つの論文(*2)の共著者のハーバード大学の研究者は、当時の同大学栄養学部の学部長で、政府組織の専門家としても意見を求められる、栄養学界の重鎮の1人でした(*1)。

 

 

政策の流れを決定づけるような論文執筆や、政策のアドバイスに関わる立場の人たちが、特定の食品団体から資金提供を受けていたこと、またそれを明らかにしていなかったことがわかり、大きく問題視されることとなりました。

 

 現在では、学術誌においては、通常、利益相反(conflict of interest・コンフリクト オブ インタレスト)といって、関連団体からの資金提供の有無を明らかにすることが求められています。

 

 

この論文では、他の研究資金については開示されているものの、SRFによる研究資金については開示されていませんでした。

 

 実際、1984年まで、NEJMは資金提供に関する開示を研究者らに求めてきませんでした(*3)。これ以外にも、その後もSRFが後押しする製糖業界は、糖質と心臓疾患の関連性について糖類への注意を薄め、他の食べ物に焦点を当てるような研究を続けて行っていることがわかっています(*1)。

 

● 消費者もお金の流れをチェックすべき

 

 この事例のように、たばこやアルコール、食品の業界団体による研究資金提供と、研究の結果が業界に有利なように結論づけられているという論文はいくつも出ています。

 

 

例えば、飲料業界が資金提供した研究は、研究者が独自で資金を集めた研究よりも、業界に好ましいような結論が発表されていると報告されています(*4,5)。

 

 

同様の結果は、複数の食品分野でも恒常的に見られており、ビジネスと研究の倫理観が問われています。

 

 研究者が倫理観を持つのはもちろん重要なことですが、消費者も、研究の結果などが発表された際には、必ず、どこが資金提供をしているか、企業のお金が絡んでいるのかなどはチェックするポイントとして持っておいた方がいいでしょう。

 

 

また、メディアは、こうした研究の発表を行う際は、研究資金の出所も追記する、もしくは論文にリンクできるような形で発表するなどすべきだと感じます。(本稿は、林英恵著『健康になる技術 大全』より一部を抜粋・編集したものです)

 

【参考文献】

1.  Sugar industry and coronary heart disease research: a historical analysis of internal industry documents. JAMA Intern Med. 2016;176(11):1680-5.

2.  Dietary fats, carbohydrates and atherosclerotic vascular disease. N Engl J Med. 1967;277(4):186-92.

3.   New England Journal of Medicine. Integrity safeguards. [cited 2021 Dec 17]. Available from: https://www.nejm.org/media-center/integrity-safeguards.

4.   Lesser LI, Ebbeling CB, Goozner M, Wypij D, Ludwig DS. Relationship between funding source and conclusion among nutrition-related scientific articles. PLoS Med. 2007;4(1):e5.

5.  Bes-Rastrollo M, Schulze M, Ruiz-Canela M, Martinez-GonzAlez MA. Financial conflicts of interest and reporting bias regarding the association between sugar-sweetened beverages and weight gain: a systematic review of systematic reviews. PLoS Med. 2013;10(12):e1001578.

(2023年10月1日ダイアモンドオンライン)

 

(転載終了)

 

この記事では、参考文献1の論文(以下「元論文」と表現します)の引用が中心となっています(参考文献1の内容は、英語がわかる人であれば、誰でも読める平易なものです)。

 

 

 

この記事自体の偏りと、この記事の元になった論文の偏りの2つに焦点を当てていきます。

 

 

 

この記事に引用されている元論文の要約をすると、1965年に甘味料ビジネスのための業界団体なるものから、砂糖と心臓血管疾患に関する研究のレヴュー論文(NEJM review manuscript)の著者たちに献金があったというものです。

 

 

 

レヴュー論文とは、今までの研究論文をまとめた批評のようなものです。

 

 

 

しかし、元論文をよく読むと、献金はあったが、業界団体が直接このレヴュー論文を書いた、あるいは著者たちの意見を変えさせたと言う直接的な証拠はないと記しています。

 

 

 

この記事では、「出版前にSRFが原稿をチェックしたり、組織的な操作が行われたりした」と書いていますが、そのような組織的な操作(まとめ論文の結果の操作)の直接的証拠はないと元論文では記しています。この記事を書いた本人が、しっかりと元になる論文を読んでいないことが明らかです。

 

 

 

この記事では、甘味料の業界団体の献金によって、心臓疾患の死亡が飽和脂肪酸やコレステロールが原因という流れになったような書き方をしています。そこで低脂肪食が潮流になったとしています。

 

 

 

 

元論文では脂質(飽和脂肪酸)やコレステロールが心臓疾患と関連している(「脂質仮説」という)と主張する他の団体の献金を調べていないとも書いています(この元論文を書かした人物は、脂質仮説を否定して「砂糖」だけが肥満の原因であると主張し続けている)。

 

 

 

つまり、低脂肪が潮流になったのは、甘味料ビジネスのための業界団体以外の業界団体の影響も排除できないということです。具体的には、この記事にも出てくるアンセル・キーズたちのグループなどです。

 

 

 

アンセル・キーズは、ロックフェラー財団の資金で「飽和脂肪酸悪玉説」を流布した張本人です(拙著『プーファフリーであなたはよみがえる』参照)。流石に、元論文を書かせた本人や著者たちもロックフェラーのバックアップのあるキーズを批判することはできなかったでしょう。

 

 

 

 

次に、記事(本になっているらしい(^_−)−☆)の根拠となる元論文を見ていきましょう。

 

 

 

この元論文では、砂糖と心臓疾患による死亡の関係を示唆するのに苦心しています(その理由は、次回詳しくお伝えします(^_−)−☆)。この元論文をじっくり見ていきましょう。

 

 

 

 

元論文で砂糖と心臓疾患による死亡の相関関係(因果関係ではない)を示唆する論文として、血糖値上昇と動脈硬化の相関関係を調べた研究を挙げています(The relationship of cardiovascular disease to hyperglycemia. Ann Intern Med. 1965;62(6):1188–1198)(Epidemiological studies of cardiovascular disease in a total community—Tecumseh, Michigan. Ann Intern Med. 1965;62(6):1170–1187)。

 

 

 

 

 

みなさん、ここで落ちつていて考えてみましょう。

 

 

 

砂糖摂取=血糖値上昇ではありません。

 

 

 

砂糖は、「ブドウ糖+果糖」

血糖値は、「血液中のブドウ糖濃度」

 

です。

 

 

砂糖は、血糖値(ブドウ糖濃度)上昇を防ぐことは基本的なエビデンスです。

 

 

 

砂糖に含まれる果糖(フルクトース)が、細胞内の糖(ブドウ糖)の利用を促進するために、血糖値(血液中のブドウ糖濃度)が低下するからです。

 

 

 

血糖値上昇とは、実際はプーファによってもたらされるものであることは、拙著や過去記事に複数のエビデンスがありますので、ご参考にされてください。

 

 

 

 

つまり、血糖値上昇は、砂糖の摂取量が多いことを意味するものではありません。

 

 

 

 

 

砂糖を摂取して血糖値が上昇するのは、すでにプーファ過剰の糖尿病の人に限られます。

 

 

 

 

 

 

糖尿病の人は、プーファによって糖(ブドウ糖)の細胞内利用がブロックされているために、砂糖に含まれるブドウ糖が血液中に滞留することで、血糖値が高くなります。

 

 

 

 

さらに、この元論文では、砂糖はデンプン質よりも中性脂肪を増やすから、動脈硬化と相関関係(因果関係ではない)があるとする論文を引用しています(Dietary sugar in the production of hyperglyceridemia. Ann Intern Med. 1965;62(6):1199–1212)。

 

 

 

 

砂糖は、「ブドウ糖+果糖」

デンプン質は、「ブドウ糖の塊」

 

です。

 

 

 

 

 

中性脂肪になるのは、過剰な果糖の一部は、飽和脂肪酸に転換されるという基本的な生理現象を示しています(拙著『自然治癒はハチミツから』参照。次のハチミツ本でさらに詳しく説明します)。

 

 

 

したがって、砂糖の方がデンプン質より中性脂肪を合成するのは当然です。

 

 

 

この生理現象と動脈硬化とは何の関係もありません。

 

 

 

 

なぜなら、生理的な砂糖摂取量をはるかに超える過量(500g/日以上)を毎日摂取しないと、血液中の中性脂肪は増えないからです(Glycogen storage capacity and de novo lipogenesis during massive carbohydrate overfeeding in man. Am J Clin Nutr. 1988 Aug;48(2):240-7)(Dietary fructose consumption among US children and adults: the Third National Health and Nutrition Examination Survey. Medscape J Med. 2008 Jul 9;10(7):160)(Glycogen synthesis versus lipogenesis after a 500 gram carbohydrate meal in man. Metabolism. 1982 Dec;31(12):1234-40)。

 

 

 

 

血液中の中性脂肪の増加は、果糖が最低でも350g/日を超えないと起こりません(Fructose consumption and consequences for glycation, plasma triacylglycerol, and body weight: meta-analyses and meta-regression models of intervention studies. Am J Clin Nutr. 2008 Nov;88(5):1419-37.)。

 

 

 

いくら甘党の私でも、1日500gを超える砂糖や350gを超える果糖の摂取を続けるのは無理です。せいぜいその1/3~1/2量程度でしょう。

 

 

 

ちなみに、心臓血管疾患の関連しているのは、中性脂肪からリポリシス(脂肪分解)によって産生される遊離脂肪酸(現代人ではプーファ)であることは、最新の研究でも再確認されています(Free fatty acids induce coronary microvascular dysfunction via inhibition of the AMPK/KLF2/eNOS signaling pathway.Int J Mol Med. 2023 Apr;51(4):34)(Plasma fingerprint of free fatty acids and their correlations with the traditional cardiac biomarkers in patients with type 2 diabetes complicated by coronary heart disease. Front Cardiovasc Med. 2022 Jul 22;9:903412)。中性脂肪は、遊離脂肪酸が悪さをしないように抱え込む物質です。

 

 

 

 

 

 

この元論文のどうしても「砂糖悪玉説」に持っていきたい“苦心”を次回も詳しく見ていきましょう😀。

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