『悪質な「糖悪玉説」を撃退する2〜リアルサイエンスシリーズ』
心身の健康ヘルスケア・パーソナルコーチのリアル・サイエンスドクタ—崎谷です。
この記事および2016年の元論文(参考文献1)では、砂糖悪玉説を強化するために、ユドキン(Yudkin,イギリスの生理学者)の論文を引用しています。
ユドキンは、『Pure, White and Deadly』という一般健康ポップカルチャー本を出して、砂糖悪玉説を流布した人物です。
それでは早速、元論文で引用されているユドキンの1957年の論文を見ていきましょう。この論文は、他の研究のデータを比較しただけの内容で、自分が臨床試験や動物実験をした訳ではありません。
ユドキンこの論文では、心臓血管疾患での死亡と砂糖摂取の相関関係が否定されています(論文のグラフ参照)。
心筋梗塞による死亡が、単一の物質によるものとは証明できないと結論づけています(Diet and coronary thrombosis hypothesis and fact. Lancet. 1957 Jul 27;273(6987):155-62)。
元論文で、もう一つ引用されているユドキンの1964年のものは、「脂肪と砂糖の摂取は相関関係にある。したがって、脂肪の摂取が心臓血管疾患による死亡と関連しているのは、ひょっとしたら脂肪ではなく、砂糖が関係しているかもしれない」という“落第”論文です(DIETARY FAT AND DIETARY SUGAR IN RELATION TO ISCHAEMIC HEART-DISEASE AND DIABETES. Lancet. 1964 Jul 4;2(7349):4-5)。
なぜ落第論文なのでしょうか?
このユドキンの論文は、先の論文と同じく他の研究のデータを比較しただけのものですが、相関関係は因果関係ではありません。したがって、現在ではこの内容はどこの雑誌にも掲載されないレベルのものです(相関関係と因果関係の違いは過去記事参照)。
彼の主張していることを詳しく説明していきましょう。
彼が言っているのは、「脂肪の食事摂取量が増えると、砂糖の摂取量が増えている。したがって、脂肪摂取量が増えて、心臓血管疾患による死亡者が増加するのは、本当は砂糖が原因ではないか?」と言っているのです。
AとBが相関関係。B とCが相関関係。したがって、 AとCも相関関係・・・・
相関関係は、あくまでも一方が増える(減る)と、他方も増える(減る)傾向にあるという“見かけ上”の現象(epiphenomena)を示しているに過ぎません。
一方が増えた(減った)ことが、他方が増えた(減った)原因であるという「因果関係」を示している訳ではないことにご留意ください。
それを踏まえた上で、ユドキンの論文の趣旨をわかりやすく説明すると、以下のようになります。
たとえば、森林と日本の人口は、どちらも年々減少する相関関係にあります。また、日本の人口と年賀はがきの数もどちらも年々減少する相関関係にあります。ユドキンの言っていることは、「そうすると、森林の破壊と年賀はがきの減少が相関関係にあるから、森林破壊の原因は、年賀はがきを書かないようになったことが原因かも知れない」というのと同じです。
これが、いかにナンセンスかがお分かりになるでしょう。
「砂糖悪玉説」を一般本にして流布したユドキンの元論文は、自分が研究したものではなく、他のデータを集めて解析しただけの落第ものです。
それも、まったく砂糖と心臓血管疾患による死亡の関係を証明したものではありません。
次に記事の本文中の誘導文章を見ていきましょう。
「1943年に、甘味料ビジネスのための業界団体として、SRF(Sugar Research Foundation)が設立されました。それから少し後の1950年代、アメリカでは心臓病による男性の死亡率が増加しました」と砂糖と心臓疾患の関係を印象付ける文章が出てきます。
甘味料ビジネスのための業界団体なるものの設立で、実際に砂糖の消費量が心臓疾患と同じく近年まで右肩上がりになっているのでしょうか?
米国農務省(USDA)のデータでは、いわゆる精製した砂糖摂取量は、1970年代と比較すると、減少傾向にあります(The Dose Makes the Poison: Sugar and Obesity in the United States – a Review. Nutr Sci. 2019; 69(3): 219–233)(Availability of caloric sweeteners drops nearly 19 percent over last 20 years. USDA Economic Research Service(https://www.ers.usda.gov/data-products/chart-gallery/gallery/chart-detail/?chartId=101051))。
業界団体の設立の年ではなく、砂糖摂取量の増加と心臓血管疾患による死亡の増加が一致しているのかを見なければ、相関関係(因果関係ではないことに注意!)を言えません。
しかも、この2017年の論文では、業界団体が砂糖の研究論文ために資金を提供したのは、1965年です。心臓疾患が急増するのは、その15年以上も前です。そして、資金提供した後は、砂糖の消費量そのものが減少しています。
つまり、研究への資金提供は事実としても、砂糖摂取量増加で心臓疾患による死亡が増加したとは言えないのです(相関関係すらない!)。ここを明確にしないと、印象操作だけで事実が捻じ曲げられてしまいます。
過去100年でも最も消費量が急増したのは、まぎれもなく植物油脂(オメガ6系のプーファ)です。1900年初頭と比較して、約20倍の摂取量となっています(Linoleic Acid: A Nutritional Quandary. Healthcare (Basel). 2017 Jun; 5(2): 25)。
米国では、大豆油の消費は、1900年初頭と比較して、約1,000倍になっています(Changes in consumption of omega-3 and omega-6 fatty acids in the United States during the 20th century. Changes in consumption of omega-3 andomega-6 fatty acids in the United States during the 20th century)。
大豆油および他の植物油脂も1950年代から急増しています。拙著『プーファフリーであなたはよみがえる』でお伝えしたように、相関関係で言うなら、1950年代からの心臓血管疾患急増は、砂糖よりも植物油脂の摂取上昇と一致しています。
現代人は、砂糖ではなく、プーファとブドウ糖果糖液糖(HFCS)の入った加工食品の摂取量が急増しているのです。肥満の急増に関しては、むしろこのブドウ糖果糖液糖(HFCS)入りのドリンクの摂取量増加と相関しています(Sweetening of the global diet, particularly beverages: patterns, trends, and policy responses. Lancet Diabetes Endocrinol. 2016;4(2):174–86)。
記事の著者が、これらの明白なエビデンスに言及しないのは何故でしょうか?
それが無知なのか、故意なのか知る術はありませんが、明らかに偏向していることはお分かりになったと思います(^_−)−☆。
この記事では、利益相反(利益の目的のために資金提供する)が医学の研究を歪めていることを甘味料ビジネス団体の例を出して警告しています。
この利益相反は、古くから、医薬品(ビッグ・ファーマ)、タバコ、医療機器産業などによって行われてきたことは複数の研究が明らかにしているところです(Why review articles on the health effects of passive smoking reach different conclusions. JAMA. 1998;279:1566–1570)(Collaboration between academics and industry in clinical trials: Cross sectional study of publications and survey of lead academic authors. BMJ. 2018;363:k3654)。
食品業界でいえば、利益相反を犯しているのは、ブドウ糖果糖液糖(HFCS)や人工甘味料入りのソーダドリンクを推奨する米国飲料協会(American Beverage Association)のような団体だけではありません(『Big Beverage Gives $10 Million to CHOP』 The Philadelphia Inquirer, Mar. 16, 2011)。
コカ・コーラ、ペプシ、モンサント(GM植物油脂!)、ネッスル、マクドナルドやスターバックス(ほとんどが実質的に♨️黒岩が所有)など、みなさんもよくご存知のモンスターカンパニーが臨床試験や医学研究に、砂糖業界とは比較にならないほどの多額の資金を提供しています(Food Industry Donations to Academic Programs: A Cross-Sectional Examination of the Extent of Publicly Available Data. Int J Environ Res Public Health. 2020 Mar; 17(5): 1624)。
記事が言及するような「組織的操作」とは、このような多国籍企業が政治や医学の世界に深く侵入していることを言うのです(^_−)−☆。