『寝る姿勢と頭痛の関係〜リアルサイエンスシリーズ』
心身の健康ヘルスケア・パーソナルコーチのリアル・サイエンスドクタ—崎谷です。
最近、1時間以上昼寝をした後に、激しい片頭痛(片方ではなく、頭全体の拍動痛)を経験することが多くなったことに気づきました。
睡眠不足によって頭痛が起こることはよく知られていますが、過剰な睡眠によっても頭痛がもたらされることが、過去の研究でも明らかにされています(Chronic headaches and insomnia: Working toward a biobehavioral model. Cephalalgia. 2012;32:1059–1070)。
この過剰な睡眠によって起こる頭痛のメカニズムは今までほとんど解明されていませんでした。
しかし、近年の脳の研究で非常に興味深いエビデンスが発表されています。
脳内には、それ以外の組織に存在するリンパ管がないとされてきました。
リンパ管は栄養を運び、老廃物を排出するのに必須の経路です。
近年になって、脳の血管の周囲の隙間(血管周囲腔、perivascular spaces (PVS))がリンパ管の排出の役割をしていることが注目されています(A Paravascular Pathway Facilitates CSF Flow Through the Brain Parenchyma and the Clearance of Interstitial Solutes, Including Amyloid β. Sci Transl Med. 2012 Aug 15; 4(147): 147ra111)(Garbage Truck of the Brain. Science. 2013 Jun 28; 340(6140): 1529–1530)。
この脳のリンパ管の役割をしているシステムを「グリンファティック・システム(glymphatic system (GS))」と名づけています。
脳の代謝において、排出物や毒性物質はこの脳のリンパ管を通じて、脳脊髄液へ排出され、最終的には血液から肝臓、腎臓で代謝されることになります。
脳は身体全体の40%のエネルギー消費のある代謝が最も盛んな臓器です。
したがって、その分、老廃物も大量に産生されます。
睡眠不足になると、この脳のリンパ管が閉じることで、脳内に毒性物質が蓄積することで、(β-Amyloid accumulation in the human brain after one night of sleep deprivation. Proc Natl Acad Sci US. (2018) 115:4483–8)(Sleep drives metabolite clearance from the adult brain. Science. (2013) 342:373–7)。
これが、睡眠不足による判断力低下、うつ病、不安神経症や認知症(アルツハイマー病、パーキンソン病)の発症につながっています(Glymphatic failure as a final common pathway to dementia. Science. (2020) 370:50–6)(The glymphatic pathway in neurological disorders. Lancet Neurol. (2018) 17:1016–24)。
さて、過剰な睡眠の場合はどうでしょうか?
これには睡眠時の姿勢が関係しています。
いわゆる仰臥位(背中を下にする姿勢)や伏臥位(お腹を下にする姿勢)を長時間継続すると、この脳のリンパ管が閉じることが分かっています(The effect of body posture on brain glymphatic transport. J Neurosci. (2015) 35:11034–44)。
2時間以上寝る姿勢を仰臥位で行うと、アルツハイマー病などの神経変性疾患のリスクが高くなることが報告されています(Head position during sleep: potential implications for patients with neurodegenerative disease. J Alzheimers Dis. (2019) 67:631–8)。
お昼寝も短時間にすることと、寝る姿勢が大事なことが分かりました(^_−)−☆。