『ダイエットを謳う薬の罠〜その2 :リアルサイエンスシリーズ』
心身の健康ヘルスケア・パーソナルコーチのリアル・サイエンスドクタ—崎谷です。
「イーロン・マスクやハリウッドスターも愛用!」と噂され、まるで魔法のように語られる痩せ薬。
しかし、これらの薬にも知られざるリスクが潜んでいます。
たとえば、オゼンピック(Ozempic)、ウェゴビー(Wegovy)、モンジャロ(Mounjaro)、ゼップバウンド(ZepBound)など、「GLP-1アゴニスト」と呼ばれる糖尿病治療薬がその代表例です。
これらの薬は、痩せ薬としてもてはやされ、世界的な品薄状態にまでなりました。
一体、これらの薬はどのような働きを持つのでしょうか?
GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は、腸のL細胞から分泌されるホルモンで、食欲を抑える作用を持っています。
その起源は驚くべきことに、アメリカ南西部に生息するアメリカドクトカゲの毒液。このホルモンを人工的に再現したのが、現在のGLP-1アゴニストです。
しかし、これらの薬が引き起こす可能性のあるリスクは決して無視できません。
たとえば、胃下垂、失明、甲状腺がんや膵臓がんのリスクを高める可能性が指摘されています(参考論文:Do GLP-1–Based Therapies Increase Cancer Risk? Diabetes Care. 2013 Jul 17;36(Suppl 2):S245–S252)(Glucagon-like peptide 1 receptor agonists and thyroid cancer: is it the time to be concerned? Endocr Connect. 2023 Sep 27;12(11):e230257.)。
さらに、これらの薬による体重減少は、メトホルミンと同じく、脂肪の減少ではなく、筋肉量の減少によるものです。これは心臓を含む筋肉にも影響を与える可能性があります(参考論文:(Semaglutide Reduces Cardiomyocyte Size and Cardiac Mass in Lean and Obese Mice. JJACC: Basic to Translational Science, 2024,https://doi.org/10.1016/j.jacbts.2024.07.006)(Muscle matters: the effects of medically induced weight loss on skeletal muscle. Lancet Diabetes Endocrinol. 2024 Nov;12(11):785-787. ))。
その結果、長期的な服用により「老け顔」となるケースも報告されています。これは顔の筋肉が衰えるためです(過去記事『飲んではいけないダイエット薬〜リアルサイエンスシリーズ』参照)。
重要なのは、これらの薬が筋肉量を減らす一方で脂肪を十分に減らさない点です。
その結果、「サルコペニック肥満(sarcopenic obesity)」と呼ばれる筋肉量が減少した肥満状態が進行し、心血管疾患や死亡リスクが高まります。
筋肉量は、血糖値をコントロールし、糖尿病の予防において極めて重要な要素です。
つまり、これらの薬は糖尿病や肥満を治療するどころか、これらのリスク要因をむしろ悪化させる可能性があるのです。
医薬品には、短期的に症状を改善させる効果があっても、長期的には対象とする疾患を悪化させる作用がある場合があります。
真の健康を守るためには、こうしたリスクをしっかり理解しておく必要があるでしょう。